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外国人雇用における注意点について入管法に精通した弁護士が解説
外国人雇用における注意点
外国人材を企業で雇用する場合、日本人の雇用とは異なる注意点がいくつかあります。そのため、初めての外国人雇用では、受け入れ前に企業内部の体制を整備する、外国人雇用に関連する法律への違反がないか確認する等の必要があります。
特に注意したい点としては、以下になります。
在留資格と在留期限を確認する
雇用の対象となる外国人が既に在留資格を保有している場合、その在留資格が就労可能であるかどうかだけでなく、になってもらう業務をすることができるものであるどうかを確認する必要があります。就労可能であれば、どんな仕事でも可能と誤った認識を持たれている事業者の方もいらっしゃいますが、ここでの誤りは重大な法令違反になりますので、細心の注意が必要です。そもそも外国人に任せたいと考えている業務内容に従事可能な在留資格があるかどうかという点も、外国人雇用を始める前に確認するべきポイントとなります。
ここでの誤りが生じないようにするために、外国人に就労資格証明書(その者が行うことができる収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を法務大臣が証明する文書です。)を取得してもらい、その原本(コピーの確認では不十分です。)を確認することも有用です。外国人を雇用等しようとする者は、その外国人が日本で就労する資格があるか否かについてあらかじめ確認する必要がありますし、他方、外国人も就職等の手続きをスムーズに行うためには、自分が就労できる在留資格を有していることを雇用主等に明らかにする手段があれば便利です。外国人が我が国で合法的に就労できるか否かは、パスポートに貼付(又は押印)された上陸許可証印、在留カード、特別永住者については特別永住者証明書を確認するほか、資格外活動の許可を受けていることを確認することによっても判断することができます。
また、外国人の在留期限にも注意が必要です。本来的には、外国人本人が管理しておくべきことですが、雇用者もこれを管理しておかないと、万が一にも、雇用後、在留資格を更新しないまま在留期限を徒過させてしまうと、不法就労となり外国人本人だけでなく、雇用側も後に説明するとおり重大な法令違反になります。なお、在留期限更新許可申請は、期限の3ヶ月前から、3ヶ月以内の在留期間を決定されている者については、概ねその2分の1を経過した時点以降、可能となります。
在留カードの有効性・真正性については、出入国在留管理庁在留カード等番号失効情報照会ページ(https://lapse-immi.moj.go.jp/ZEC/appl/e0/ZEC2/pages/FZECST011.aspx)、及び、在留カード等読取アプリ(https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/rcc-support.htmlからダウンロード可能)で確認できます。特に、アプリを利用すると在留カード自体の真正性が確認できますので、外国人を雇用する事業者としては必須のアイテムです。
日本語レベルを確認する
外国人の日本語能力は様々です。日本語能力試験(JLPT)などの検定試験を受けている外国人もいれば、受けていなくても一定の日本語能力を有する外国人もいます。
いずれにしても、雇用後は、対内的・対外的に日本語でコミュニケーションをする場面があるでしょうから、その仕事に必要な日本語レベルを有するかどうか確認する必要があります。
外国人雇用特有の届け出を行う
外国人を雇用した場合、ハローワークに対し、雇入月の翌月10日までに労働施策総合推進法に基づく届出が必要となります。具体的には、雇用保険の取得届に記載して報告する場合は、雇用保険被保険者資格取得届の備考欄に記載して、雇用保険の加入義務がない場合は外国人雇用状況の届出書(様式第3号)を提出して行います。記載すべき内容は、外国人労働者の氏名、在留資格、生年月日、性別、国籍、資格外活動許可を受けている場合にはその旨、雇い入れ日、事業所の名称・所在地などです。
なお、離職の場合は離職日の翌日から起算して10日内に同様に届出が必要となります。
社内の環境・フォローアップの体制を整える
外国人労働者が孤立しないよう、定期的にコミュニケーションを取ることが重要です。また、雇用後も、雇用条件、就業規則、労働法について質問に対しては丁寧に説明し、理解を深めてもらうことが必要です。こうすることで、労使双方で不法就労を防止できます。
厚労省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」では、事業者は、外国人労働者を常時10人以上雇用するときは、外国人労働者の募集及び採用の適正化、適正な労働条件の確保、安全衛生の確保、社会保険関係の適用、人事管理・教育管理・福利厚生等を管理させるため、人事課長等を雇用労務責任者として選任することが求められています。外国人労働者が常時10人未満の事業者においても、この指針を参考にした組織づくりをすることが有用です。
採用のための手続き
外国人の採用・雇用手続きは、ビザの申請など日本人の雇用と異なる部分もありますが、同じ部分もあります。
労働契約などは日本人と同じ手続きを行う
外国人を雇用する場合、日本人と同様のプロセスの部分と外国人特有のプロセスがありますが、労働契約などは日本人と同条件にて手続きを行う必要があります。ただし、契約のための書類などは外国人の日本語能力に応じて、英語や母国語の書類を用意すると、トラブル予防に繋がります。
雇用契約を締結する際に特に注意するべきポイント
雇用条件を明示する
期間、就業場所、業務、就労時間、賃金(決定、計算、支払方法、締日、支払日)、退職に関する事項、昇給に関する事項等労基法15条の要件を満たした労働条件通知書を交付して、労働契約を締結する必要があります。就業規則自体の交付義務はありませんが、労働条件の説明にあたって、利用し、また、労働者がいつでもアクセスできる状態にして備え置く必要があります。
これらは、日本人労働者と同様ですが、上記のとおり、言語が異なりますので、必要に応じて、外国人が理解できる言語による説明や書面の準備が必要となります。
給与についての説明を丁寧に行う
給与等お金に関する説明は特に重要です。所得税、社会保険料、住民税の控除や労使協定による控除(社宅、寮費など)があるため、いわゆる額面額と手取り額は異なります。日本人であれば当然に理解していることであっても、制度の違いにより外国人にとっては当然とはいえないこともあります。賃金に関しては深刻なトラブルになる可能性がありますので、特に雇用時は、控除される金額の見込みなどを伝えて、丁寧に説明することが重要です。
外国人社員に保険は適用されるのか
社会保険について
外国人に関して、健康保険と厚生年金の適用の有無も、日本人と異なりません。
したがって、法令にしたがい、加入しなければなりません(ただし、社会保障協定を締結している国の外国人については注意を要します。)。これは、労働者の希望で変更することはできませんので、違法行為が生じないよう注意して下さい。
労働保険について
外国人に関して、健康保険と厚生年金の適用の有無も、日本人と異なりません。
したがって、法令どおりに、加入しなければなりません。これは、労働者の希望で変更することはできませんので、違法行為が生じないよう注意して下さい。
税金について
所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収も同様です。
一定の要件の下、外国人労働者の海外居住の家族に関して、扶養控除を受けることが出ますので、外国人を雇用する事業者としては、これの対応(具体的には年末調整)も必要です。
外国人雇用における法的リスク
不法就労問題とは
不法就労とは、外国人が在留資格で認められ就労活動以外の活動を行うこと又は不法滞在外国人が就労活動を行うことです。不法就労を行うのは外国人ですが、外国人を不法就労等させた事業者は不法就労助長罪に該当することになります。ここで「させた」というのは、意図的(故意)にさせただけでなく、過失によりさせてしまった場合も含むことに注意が必要です。
不法就労助長罪に該当する場合
入管法73条の2第2項には、「(中略)知らないことを理由として、(中略)処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。」と定められています。
これは、知らなかったという言い訳は通用しないということを意味します。他方、過失がなければ(無過失であれば)処罰されないのですが、外国人労働者の在留資格の徹底管理及び業務との一致も徹底的に行っていなければ、無過失とはなりません。雇用時の在留資格の確認、在留カードの有効性・真正性の確認、雇用後のそれらの管理、また、業務自体が在留資格で認められたか活動から逸脱しないよう管理することが必要です。
不法就労助長罪の罰則と処罰の対象
不法就労助長罪の罰則は、「3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はこれの併科(両方)」です(2024年8月31日現在)。また、2024年6月成立の改正法で3年以内に、「5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はこれの併科(両方)」となりますので、一発で実刑もあり得る重罪となることに注意が必要です(出入国在留管理庁の資料でも「不法就労助長罪の厳罰化」として紹介されています。)。
不法就労をした外国人ごとに罪も成立しますので、仮に、3人であれば、3つの不法就労助長罪が成立し(併合罪)、それに応じた罰則の重さになります。
また、処罰の対象は、行為者(人事担当者、代表者等)だけでなく、その行為者が所属する法人または個人事業主も含まれます(両罰規定あり)。